増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米4月住宅着工、大幅増加一時的か=一戸建ては依然低迷

―米上院、下院に続いて31兆円のFHA融資保証法案策定へ―

【2008年5月18日(日)】 - 先週(16日)、米商務省が発表した4月の米住宅着工件数は、前月比8.2%増となり、17年ぶりの大幅減少となった3月の同13.8%減から再び増加に転じた。

 この強い結果を受けて、市場では、一部に底打ちが近いと楽観的な見方もあるが、主力の一戸建てが依然、低迷していることから、前月の急落の反動増で、住宅市場の回復は一時的という見方が支配的だ。

 また、これより先に発表された5月のNAHB(全米住宅建設業者協会)/ウエルズ・ファーゴ住宅建設業者指数が3カ月連続で低下、4月のフォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)手続き通知件数も前年比65増と依然衰えを見せていない。

 4月の住宅着工件数(季節調整値)は、前月比8.2%増の年率換算103万2000戸となり、市場予想の94万戸を大幅に上回った。これは2006年1月の同14%増以来2年3カ月ぶりの大幅増加だ。着工件数は、1月の同8.3%増のあと、2月は同0.7%減と落ち着いたが、3月は再び13.8%減と急速に悪化しており、不規則な状況が続いている。

 しかし、対前年比でみた住宅着工件数の水準は30.6%減で、建築業者は依然、一戸建て住宅需要が低調なことや、フォークロージャーの増加の影響で住宅供給が依然高水準にあるため、着工には慎重になっている。

一戸建て着工件数、約17年ぶり低水準

 4月の住宅着工件数は全体として増加したものの、一戸建ての悪化には依然歯止めがかっていない。一戸建ては前月比1.7%減の69万2000戸と、12カ月連続の減少を示し、前年比も42%減と依然、1991年1月以来17年3カ月ぶりの低水準となっている。

 これは、住宅建築業者が引き続き在庫が増えないよう調整していることを示しているが、高級住宅メーカーのトール・ブラザーズが先週初め(13日)に発表した今年度第2四半期決算では、住宅建築の売上高が前年比30%減となった。住宅見学の訪問客数も過去最悪を記録したとしている。

 他方、アパートや分譲マンション、タウンハウスなど2世帯以上の集合住宅は、3月の同35%減(改定後)から、再び同36%増の34万戸となり、特に5世帯以上の建築件数は、同40.5%増に反発した。集合住宅の動向は、1月は同39.4%増、2月は同13.1%増、3月は35%減と月によって、変動が激しいのが特徴になっている。

4月の建築許可件数、前年比34%減=一戸建ては17年ぶり低水準

 また、同時に発表された4月の建築許可件数は、今後の住宅着工の先行指標となるものだが、前月比4.9%増(年率換算97万8000戸)と、5カ月ぶりに上昇に転じた。また、市場予想の91万2000戸を大幅に上回ったが、前年比は34%減と依然低迷している。

 このうち、一戸建ての許可件数は、前月比4%増の64万6000戸、集合住宅も同7.3%増の29万4000戸となったが、一戸建ての前年比は40%減と大幅に落ち込んだままだ。

住宅市場の回復の兆し見えず=NAHBエコノミスト

 実際、15日に発表された5月のNAHB/ウエルズ・ファーゴ住宅建設業者指数は、4月の20から19に低下、3カ月連続で低下しており、昨年12月の過去最低の18に近づいた。これは約5社に一社しか今後の住宅市場の改善を見込んでいないことを示す。

 NAHBの主任エコノミスト、デービッド・サイダース氏は、これまでの政府のフォークロージャー対策にもかかわらず、住宅市場にはまだ回復の兆しが見られていないと指摘している。

 NAHBは4月15日に、クジレット危機の長期化見通しを理由に、今年の住宅着工件数の見通しを従来予想の前年比27%減から同30%減に下方修正している。

 さらに、4月24日に発表された3月の新築住宅販売件数も前年比36.6%減と17年ぶりの低水準となっている。エコノミストは、住宅市場はまだ底打ちしていないと見ており、少なくとも今年末までは住宅着工は下落し続けると悲観的だ。

米上院両党、31兆円住宅ローン借り換え保証法案でほぼ合意

 ブッシュ政権は4月9日に、ARM(変動金利)型住宅ローンのリセット(金利条件改定)で返済が滞り、フォークロージャーの危機に直面している借り手に対する追加救済策を発表した。

 これは昨年8月から実施しているFHA(連邦住宅管理公団)の借り換えローン促進制度「FHA Secure」の対象を拡大するもので、新規に10万世帯の救済を追加し、これまでに救済された15万世帯と合わせて、今年末までに計50万世帯に拡大するとしている。

 他方、民主党のバーニー・フランク下院金融サービス委員長(マサチューセッツ州選出)は、先月初め、政府対策では不十分として、FHAによる3000億ドル(約31兆2000億)の借り換ローンに対する融資保証を実施する法案を議会に提出した。

 同法案は、返済能力がほとんどない世帯を含め50万世帯(当初の150万-200万世帯から縮小)を5年間にわたり救済するというもので、先週の5月8日、同法案は下院を通過している。しかし、ブッシュ大統領は、国民の税負担を高めるリスクがあるとして、拒否権を行使する構えだ。

 一方、上院では、5月15日に、銀行住宅都市委員会のクリストファー・ドッド委員長(民主党、コネチカット州選出)が共和党のリチャード・シェルビー議員(アラバマ州選出)と、3000億ドルのFHA融資保証を軸とした上院案の策定で、ほぼメドが立ったと発表、今週、同案の細部の詰めの作業に入る予定だ。

4月のフォークロージャー件数、依然高水準

 また、米不動産調査会社リアルティトラックが14日に発表した4月のフォークロージャー手続き通知件数も、前年比65%増(前月比4%増)の24万3353件となった。依然、28カ月連続で前年水準を上回っており、底打ちの兆しが見えず、住宅価格の下落圧力となっている。

 これは519世帯につき1世帯の割合(全住宅の約2%)で住宅を失っていることを意味している。今年だけで100万件以上のフォークロージャーが見込まれている状況だ。

 このうち、実際に銀行が担保として差し押さえた物件数は、前年比133%増の5万4500件強と、依然、2倍以上になっている。

 こうした銀行差し押さえ物件は、今年、75万戸から100万戸が住宅市場に供給される見通しで、すでに売り出されている住宅の約25%を占めるだけに、今後の住宅価格の低下圧力となる。JPモルガンチェースでは、住宅価格は今年、さらに7-9%下落すると予想している。

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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