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米国金融不安 金融危機は避けられるのか?

9月16日夜にFRBが米保険最大手AIGの公的救済を発表してから2日が経過、金融市場は17日には「質への逃避」の加速という厳しい反応を示したが、18日は一転して株価が急反発するという慌しい展開をみせた。

金融当局の対応は奏功するのか、それとも危機は避けられないのか。

この3日間の動きを総括して、我々の現状判断を示したい。

1.事実上の政府管理へ移行したAIG、モラルハザード阻止への厳しい条件も課される

 9月16日夜、FRBは資金繰りの極端な悪化に直面していたAIGに対して、NY連銀によるAIGに対する最大850億ドルの緊急貸出枠を設定すると発表した。ただし、貸出の条件は、期間24カ月、金利は3カ月物LIBOR+850bps、担保はAIGの全財産(子会社株式含む)、返済方法はAIGの資産売却という非常に厳しく設定された。また米政府が同社株式の79.9%の取得権を獲得、同社経営陣は退任することに決まり、AIGはGSE2社と同様に事実上の公的管理に移行することになった。

 金融当局の救済を受けたAIGと拒否されたリーマン・ブラザーズの分かれ目は、当局の予測する経営破綻が世界の金融システムに与えるインパクトの大小であった。当局は、AIGが世界中で保険事業を展開し、主要金融機関と取引があり、4,500億ドルに上るCDSを管理して同市場の中心的存在であるため、突然の経営破綻は世界の金融システムを揺るがす恐れがあるとみた。リーマン・ブラザーズ破綻の衝撃は金融システムを揺るがす規模にならないと判断したのであろう。ただ、ベアー・スターンズとGSE2社への公的救済によって拡大したモラルハザードをこれ以上膨らませないことも必要であるとの考慮から、AIGに対して厳しい貸出条件が課されたと考えられる。


2.金融危機を起こさずにレバレッジ調整を完了させたい金融当局

 FRBは16日のFOMCで政策金利(FF金利誘導目標2%)の据え置きを決めている。この政策判断と前日のリーマン・ブラザーズに対する公的救済の拒否、そしてこれまでの公的救済から読み取れることは、金融当局の「米国の金融市場に必要なレバレッジの調整を、金融危機を起こさせずに完了させる」という姿勢である。

 02年から06年の間、米国の家計の借入は年平均11%増、金融機関の借入も同10%増と、この間の(名目)経済成長率とは乖離したペースで伸び、保有資金よりも大きな資金を動かすレバレッジが膨らんだ。この間、証券化など金融面の技術革新が進んだことや、各種ファンドの台頭もレバレッジの拡大を促進した。しかし、投資に不可欠な適正なリスク評価がこの技術革新や新しいプレーヤーの増加に追いつかず、結果としてリスクを過小評価した投資の蓄積を許し、貸し手にとっては潜在的な不良債権が膨らんでいった。

 家計と金融機関の借入の伸びは、家計が借入により購入した住宅の価格がピークに達し、借入のデフォルトが増え始めた06年から低下に転じたが、それは悪循環の始まりだった。不良債権の増加によりバランスシートが毀損した金融機関は、資産圧縮のために貸出を一斉に絞り、資本増強でレバレッジを調整する。それはここの金融機関にとっては合理的な行動であるが、それが住宅などの投資を抑え、住宅などの資産価格が需給バランスの緩みからいっそう下落する。金融機関にとっては、ローンの延滞増加と関連の証券化商品の価値下落という複数の経路から一段とバランスシートが悪化し、一層の貸出抑制と資本増強を余儀なくされる。典型的な合成の誤謬である。この悪循環が止まるのは、住宅など資産価格の下落に歯止めがかかるときであり、住宅など資産価格が割安と認識する投資化が増えて、需給が均衡するまで、レバレッジの調整が進む必要がある。

 しかし、米国の大恐慌や80年代から90年代始めのS&L(貯蓄貸付組合)危機、近年では日本の金融危機のように、レバレッジの縮小局面では、金融システムを揺るがす金融危機が起こりやすい。過大な融資の調整過程では市場参加者の数も減るため、一部の金融機関の破綻は避けられない。問題は、破綻する金融機関の金融システムにおける地位や破綻のタイミングによっては、他の金融機関の連鎖的な破綻が発生したり、市場に不安心理が広がって過度のリスク回避指向が強まる「質への逃避」が起きることである。いったん金融危機が生じれば、資産価格の下落に拍車がかかり、調整に要するコストと時間が大幅に増えてしまう。だからこそ、金融危機のリスクに目を配り、危機の芽を摘む適切な措置を講じていくことが金融当局の重要な役割なのである。これまでの公的救済も対象金融機関ではなく、金融システムを守るための措置と考えられる。

 ただ、公的救済には、金融機関のモラルハザード拡大を通じて、レバレッジの調整を妨げる副作用もついてくる。だから、金融システムに影響しない金融機関の破綻に対する公的救済を行ってはならない。リーマン・ブラザーズに対する公的支援の拒否はこの条件に該当する。FOMCで利下げが見送られた理由の一つには、金融システムの混乱の危険性は高くないとの判断があるだろう。一方で必要な公的救済でも、できるだけ副作用を抑える別の政策を付帯することが望ましい。これに該当するのが、AIG救済に付いた厳しい条件であると考えられる。


3.RTC構想の追加で市場は当局を評価、先行き懸念残るが、危機回避の可能性が浮上

 しかし16日までに当局が講じた措置は、翌17日の金融市場のパフォーマンスをみるかぎり、金融危機の防止に欠かせない市場参加者の信任を得られなかった。同日の株価はダウ平均で前日比449ドル安、ドル安が進む一方、債券市場では安全資産の代表である3カ月物財務証券の利回りは前日から急低下して一時0.02%と1941年1月以来の低さを記録するという典型的な「質への逃避」が発生した。一方で短期資金を融通する銀行間市場は、金融機関同士の疑心暗鬼の強まりから取引停止同様の状態に陥り、インターバンク金利が上昇。債券市場の不安心理の指標とされるTEDスプレッド(3カ月物LIBORと財務省証券の金利差)は3.04%に拡大、ブラックマンデーが起きた1987年10月以来の幅に達した。市場参加者は、質への逃避の動きを加速させることで、当局に金融危機防止のための措置の再考を迫る形になった。

 こうなると当局は早急に市場に追加的な措置を提示するしかない。翌18日、FRBなど米日欧の主要6中銀がドル資金供給の強調策を発表、6中銀による総額1,690億ドルを銀行間市場に供給、金融機関の資金繰りの支援に努めた。さらに午後には米CNBCが、「ポールソン財務長官は破綻金融機関の不良債権処理について、S&L危機の際に利用されたRTC(整理信託公社)型の組織設立を検討中」と報じた。RTC構想を含めた追加措置を受けて、18日の金融市場は前日の質への逃避を修正する動きをみせた。株価はダウ平均で前日比410ドル高、ドルは反発し、LIBOR翌日物は3.84%へ低下(前日比119bps低下)、逆に3カ月財務省証券は0.15%へ上昇している。

 2日間の金融市場の大きな変動は、文字通り市場参加者の動揺を示したが、18日の各市場の終値等をみる限り、16日までの措置に上記の追加措置を含めて、当局は市場参加者の信任を得られたといえる。もちろん、18日時点でも米国債の利回りの低さ、LIBORの高さからみて、質への逃避は部分的に修正されたにとどまっており、市場参加者の不安が解消されたわけではない。今後、新たなショックが発生すれば、信用不安が再拡大して金融危機が発生するリスクは、まだ一定水準で残っているし、要注意の状態がしばらく続くと思われる。

 一方で株価が今週だけで、大手投資銀行2社の破綻・買収、保険最大手の公的管理というショックが重なった割には、ダウ平均の18日終値で前週末比3.5%の低下にとどまっていることも評価する必要がある。大きなショックと当局の不十分な対応という紆余曲折があったが、現時点では市場参加者の先行きへの期待がつなぎ止められているということであり、ショックの吸収に当局が一定の役割を果たしたと考えるべきである。そもそも、今年3月からベアー・スターンズ、9月にはGSE2社への公的救済を金融危機に発展させることなく乗り切った当局である。公的管理となったGSE2社の債券も、今週は質への逃避の動きの中で安全資産の一つとして評価された。この点からも、市場参加者の当局に対する信任が根底から揺らいでいるとは考えにくい。今後、新たなショックがなく、前述のRTCが現状の観測のレベルから実現へ動き出せば、市場参加者の当局への信任は強まり、金融危機のリスクは徐々に小さくなっていくだろう。総合的に見れば、現時点では、危機回避の可能性が発生の可能性を多少ではあるが上回っていると考えられる。


4.株価下落は投資家の金融機関に対する行動の催促も反映、信用不安の中で金融再編の兆候も

 今週は、経営破綻への懸念が市場に広がって久しいワシントン・ミューチュアル等だけでなく、残された投資銀行であるモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの株価も一時、大幅に下落した。さすがに2つの投資銀行を市場参加者が次の破綻候補とみているはずがなく、下落は2社の経営刷新を催促したのだろう。

 買収されたメリルリンチとベアー・スターンズ、破綻したリーマン・ブラザーズなどを含めた大手投資銀行の平均的な負債の対資産比率は08年5月末現在で30%を超えている。07年末に比べれば低下傾向だが、03年の20%強と比べればはるかに高い。近年の米国の金融市場におけるレバレッジ拡大の象徴であり、レバレッジ縮小が求められる現状では、市場参加者のコンセンサスはこうしたビジネスモデルの存続を認め難いということなのであろう。残された投資銀行2社は破綻はないにしても、ビジネスモデルの転換・修正を求められている。メリルリンチは、バンク・オブ・アメリカによる買収という答えを示したが、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスは、逆に商業銀行の買収を検討してくる可能性もある。モルガン・スタンレーについては、既にワコビアとの合併を検討という報道もある。近日中に買収・合併が実現すれば、それも市場参加者の求める回答であり、金融市場の安定回復に寄与するだろう。

 9月17日付のニューヨーク・タイムズ紙によれば、大手金融機関29社の時価総額は07年10月9日には1兆8,600億ドルもあったが、08年9月18日には9,800億ドルと半分近くに減ったという。ただ、その中には、時価総額が増えたUSバンコープ(1%増)、減少を1割前後にとどめたJPモルガン(12%減)やウェルズ・ファーゴ(9%減)など、逆風を乗り切ってきた金融機関もある。これは大恐慌や日本の金融危機との違いである。前述の投資銀行2社の動きも踏まえると、これだけの混乱の中でも商業銀行を中心とする米国の金融再編やユニバーサルバンクの台頭といった変化が姿を現し始めたとも考えられる。この現状を金融危機と捉えるのは果たして的確だろうか。


5.景気展望は厳しいが、住宅市場の調整進展の兆しも

 金融市場から実体経済に目を転じると、予想外の安定成長を記録した08年前半の勢いはもはやみられない。7-9月期の経済成長は、足元の個人消費、雇用、住宅市場、輸出入の各統計からみて、0%近い低成長にとどまる可能性が高いとみられる。10-12月期も回復は期待できず、景気の低迷が続くと見込んでおいたほうがよいだろう。ただ、こうした見方は既に金融市場に織り込まれているだろう。

 一方、住宅市場は、積み上がった在庫解消に必要な中古物件の販売が最悪期を脱する兆候をみせている。割安な価格への反応に加え、GSE2社の公的管理により住宅ローン金利が低下するなど、非常に厳しい住宅市場の環境がわずかだが緩んできたのである。それでも在庫水準は高いため、供給超過が住宅価格を押し下げる状態は09年前半まで続き、住宅投資としての回復は10年からになると思われる。それでも市場の調整に目処がつき、不良債権がこれ以上膨らまないとの期待が金融機関に広がれば、前述の悪循環は終わりに近づいていく。その時期も09年半ば以降ではあると思われるが、金融当局にとって「金融危機を起こさないでレバレッジ縮小を完了させること」は、視界に入らないほど遠く、困難な目標ではない。逆に、ここで金融不安が起きてしまえば、10-12月期から09年前半にかけて、信用不安の増大と住宅価格の一層の下落が消費・投資を落ち込ませるという波及経路ができてしまい、09年の景気後退が深刻になる恐れが出てくる。

 景気展望としては、金融危機を未然に抑えても当面の景気は低成長、金融危機が起きれば景気後退の長期化であり、どちらも厳しいものではある。それでも当局が、金融危機を予防しながらレバレッジの調整が進展しており、モラルハザードの抑制という新しい動きを見せる局面に入ったことを評価して、今後の米国の金融業を主導するビジネスモデルを探るなど、レバレッジ調整後の展開を積極的に考え始めてもよいのではないか。


6.大統領選の選挙戦に影響を及ぼし始めた今回の信用不安、マケイン候補に不利に働く

 15日時点では今回の信用不安が大統領選の選挙戦に及ぼす影響は不透明であった。だが、最近発表された世論調査によると、マケイン候補が株価急落の途上で「米国経済のファンダメンタルズは強い」と発言したことや、その後の信用不安に対する発言を受けて、有権者の同候補の経済運営に関する能力の評価が低下し始めている模様であるし、支持率にも響き始めている。例えば、ギャロップ社の世論調査(3日間の日次調査の平均)によれば、16日まではマケイン候補がオバマ候補を上回っていたが、17日にはオバマ候補が47%、マケイン候補が45%と再逆転し(共和党大会までオバマ候補がリード)、18日はオバマ候補が48%、マケイン候補が44%と差が4%ポイントに広がった。

 登場以来、ブームを起こしてきたペイリン副大統領候補も、経済・金融面ではマケイン候補の頼りになるとは考えにくい。ただ、金融市場が落ち着きを取り戻せば、まだ50日近い選挙戦では別の争点が出てくることも十分に考えられる。経済・金融面ではオバマ候補が必ずしも強いわけではない。現状は、信用不安がマケイン候補の失点となり、これまでの若干のリードがなくなって、より大接戦になったとみておけばよいだろう。

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02月04日更新

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