村田雅志のKlugView グローバル投資のポイント

日銀が頑張ればよいという単純な話ではないデフレへの対処法

11月24日、藤井財務相は、閣議後の会見で、物価は金融の問題であり、デフレに対する金融の役割が大事と述べ、日本銀行の金融政策に期待感を示しました。また、亀井金融相は、「日銀は眠り病にかかっている」と述べ、日銀が追加的な金融緩和に否定的なことに対し不快感を示しました。

物価は、モノ・サービスと貨幣の交換比率と考えられるため、市中に出回る貨幣の量を増やせば、モノ・サービスとの交換比率も上昇するため、結果的に物価が上がると考えられています。しかし、日本で起きている物価下落(デフレ)は、貨幣の量が少ないから生じている、というよりも、モノ・サービスの需要が供給よりも弱いために生じている、と考えれています。藤井氏や亀井氏が指摘するように、単に日本銀行が金融緩和を強化したからといって、需要と供給の関係が大きく変わるわけでもなく、物価が上昇に転じるとは思えません。

金融政策は、実体経済の需要と供給の関係を直接的に変える手段ではなく、あくまで補助的な位置づけでしかありません。貨幣の量で無理やり需要と供給の関係を変えようとするならば、日本銀行が民間銀行を通じて貨幣量を調節するよりも、直接、市中に貨幣を流通させる必要が出てきます。おそらく、亀井氏などは、そのような手段を日本銀行に要望したいのでしょうが、そんなことをしても貨幣の信認が落ちるだけで、物価が上昇したとしても、株式や不動産といった資産価格が、より大きく上昇し、結果として貧富の差が拡大するだけのように思えます。

金融政策だけでなく、財政政策でデフレに対応するべきだ、という意見も出ています。亀井氏が代表を務める国民新党は、総額11兆円規模の二次補正予算案を発表しており、財政出動の受容性を主張しています。

マクロ経済では、需要と供給の関係を把握するために需給ギャップというものを推計します。需給ギャップは、経済全体の需要と供給の乖離を示すもので、需要が供給よりも小さいと需給ギャップはマイナスの値をとることになります。内閣府の試算によると、現在の日本の需給ギャップは、GDPの約8%(約38兆円)ものマイナスになっています。仮に二次補正予算で、この需給ギャップを埋めようとしたら、国民新党が提示する予算案でも足りないことになります。言い換えれば、需給ギャップを財政だけで埋めようとするのは、かなり無理があるといえます。

マクロ経済では、需要も供給も一つずつしかないように考えますが、実際の経済では、モノ・サービスごとに需要と供給があり、それぞれの関係性があります。たとえば、多くの方が「ハコモノはいらない」と指摘するように、建築物に対する需要は弱いですが、エコカーが納車待ち状態にあるように、特定のモノ・サービスは需要が供給を上回っています。

社会主義的な経済運営が失敗したように、需要と供給に関するきめ細かい動きを、政府が一元的に管理をしようとすることは、現実的ではありません。つまり、たとえ財源が豊富にあり、金額的には需給ギャップを埋めることができたとしても、全てのモノ・サービスの需給ギャップを解消することは難しいと考えるべきです。公共事業をいくらたくさんやっても、需要の弱い建築物が数多くできるだけで、エコカーの納車待ちが解消されるわけではないことからも分かります。

政府がデフレ宣言をしたこともあり、社会においてデフレ脱却の必要性が叫ばれるようになり、政府としても、何か即効性のある政策を捜し求めたくなる気持ちは理解できます。しかし、経済が複雑な仕組みで運営されているように、金融政策にせよ財政政策にせよ、いわゆる特効薬があるとは思えません。政府が必要なことは、複雑かつ細かく動いている民間の経済活動を活発にすべく、税制や規制といった環境整備を大胆に実施することのように思えます。


村田雅志(むらた・まさし)

●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●

内閣府の推計によると、現在の日本の
需給ギャップはどれくらい?

●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●

約8%


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03月12日更新

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村田雅志(むらた・まさし)

FXCMジャパン チーフエコノミスト 兼 営業部長
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月にGCIキャピタル・チーフエコノミスト。
09年4月より専修大学客員教授。09年6月より現職。
東京工業大学生命理工学研究科修士課程修了、Columbia University Master of International Affairs修了、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」、「一冊まるごと投資商品超入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」など

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