村田雅志のKlugView グローバル投資のポイント

過度に悲観する必要はない設備投資額の減価償却費割れ

10月23日付の日本経済新聞は、09年上半期の設備投資額が減価償却費を下回ったと報じています。記事によると、設備投資が減価償却費を下回ったのは、02年上期、03年上期に続き、半期ベースでは3度目だそうです。

減価償却費とは、長期間にわたって使用される設備に要した総額を、設備が使用できる期間にわたって配分する際に発生する費用です。たとえば10年使える設備を2千万円で購入すると、毎年計上される減価償却費は(原則)200万円となります。

設備投資額が減価償却費を下回ることは、以前に設備投資した額よりも、現在の設備投資額の方が少ないことになり、設備投資総額が目減りすることを意味します。一般的に設備投資は、企業の生産性に大きく左右するものと考えられています。このため、設備投資総額が目減りすることは、日本の企業の生産性、ひいては日本経済の成長性が低下する、と考えることも可能です。日本経済新聞の記事も、エコノミストや大学教授のコメントを挿入しながら、設備投資の目減りによる悪影響を懸念するトーンになっています。

ただ、日本経済新聞が記事を作成するために利用した統計の性質を考えると、記事にて指摘された「設備投資額が減価償却額を下回る」という事実は、それほど大きく悲観視する必要もない気がします。

日本経済新聞が記事を作成するために利用した統計は、財務省が発表する法人企業統計と呼ばれるものです。法人企業統計は、資本金1千万円以上の企業約3万社を対象に、企業の財務諸表を四半期ごとに調査するものです。

先ほどご説明したように、減価償却費は、過去の設備投資額によって決まるため、設備投資に要した単位あたり費用(物価)も過去のものといえます。一方、現在の設備投資は、(当然のことですが)現在の物価が適用されます。

日本銀行が発表する企業物価指数を見ると、資本財の物価は1985年をピークに低下傾向にあります。今から10年前に該当する1999年と2009年とを比較すると、資本財物価は約2割も低下もしています。このため、実質的に同じ規模(数)の設備投資をしたとしても、物価が低下している分、設備投資総額は過去に比べて低下することになります。

日本経済にとって、設備投資の拡大は、長らくの間、経済成長のエンジンとして機能してきました。こうした図式が頭にあると、たとえ物価が下がったとしても、設備投資が低下することに危機感を頂くのは無理もないことですし、ましてや減価償却費を下回ることに懸念を示すのも無理はないことかもしれません。

しかし、日本経済が、デフレ傾向にある中、多額の設備を必要とする製造業から、軽微な設備でも事業が可能なサービス業へシフトすることも考えると、今後も日本の設備投資額が、減価償却費を下回ることは十分ありえます。過去のスキームを前提に、設備投資の低下を嘆くことよりも、新しい日本経済に資する設備投資のあり方を考えるほうが、我々にとって、より生産的な気もします。


村田雅志(むらた・まさし)

●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●

法人企業統計とは何?

●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●

財務省が発表する統計。
資本金1千万円以上の企業約3万社を対象に、
企業の財務諸表を四半期ごとに調査する。


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村田雅志(むらた・まさし)

FXCMジャパン チーフエコノミスト 兼 営業部長
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月にGCIキャピタル・チーフエコノミスト。
09年4月より専修大学客員教授。09年6月より現職。
東京工業大学生命理工学研究科修士課程修了、Columbia University Master of International Affairs修了、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」、「一冊まるごと投資商品超入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」など

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