村田雅志のKlugView グローバル投資のポイント

すでに低下している労働分配率

日本経済新聞の集計によると、上場企業の2008年度の労働分配率は、55.1%と、過去25年間で最高水準になりました。これまで労働分配率が最高だったのは、金融機関の破綻が相次いだ98年度の53.6%でした。

労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち、人件費が占める割合を示したものです。付加価値額とは、企業の利益(利払い後の事業利益)、人件費、減価償却費、配当金、税金を合計したものです。よって、労働分配率が上昇するのは、人件費が増加する場合か、付加価値が減少する場合となります。

2008年度の労働分配率が上昇したのは、人件費が増加したのではなく、付加価値が減少したためです。2008年度の人件費は2.7%減少しましたが、付加価値は20.3%も減少しています。企業は、人件費を(それなりに)削減したものの、付加価値の減少ペースが早すぎたため、結果として労働分配率が上昇したといえます。

労働分配率は、企業が生み出した付加価値から、労働者にどれくらい分配したかを示す尺度と言えます。つまり理由は何であれ、労働分配率が上昇したということは、企業は、労働者への分配を高めたといえます。

ただ、企業としては、労働者だけでなく、生み出した付加価値額の一部を投資のために取って置く(内部留保を増やす)必要もあるほか、株主や政府への分配にも気を使う必要があります。そこで、一般的には、労働分配率が高まってしまうと、企業は、労働分配率を下げるために、人件費を削減する動き、つまり人員削減や賃金の抑制を進めるといわれています。集計結果を報じた日本経済新聞の記事でも、労働分配率が上昇したので、今後は人員削減や賃金抑制が進む可能性がある、と報じられています。

しかし気をつけなければいけないのは、2008年度は、上期と下期で事業環境が大きく違ったことです。2008年度の上期は、事業環境が比較的落ち着いていた一方で、下期は、100年に一度といわれるほどの不況となり、企業の利益が一気に減少しました。そうした中、企業の多くは、需要の現象に対応すべく、年度下期に労働者の削減を急ピッチに進めました。ただ、年度を通してみると、上期の影響もあり、人件費は高止まりする一方で、付加価値を大きく減少させる結果になってしまったように思われます。

2009年4-6月期の企業決算が示すように、企業は、2008年度の下期に労働者の削減を進めたこともあり、足元では利益を確保しつつあるようにみえます。言い換えれば(まだまだ油断はならないものの)、企業の多くは、すでに人件費の削減をそれなりに進めており、今年度(2009年度)の労働分配率は、昨年度(2008年度)に比べすでに低下しているように思えます。2008年度の労働分配率が非常に高かったとはいえ、2009年度の半分が終わりつつある現時点から、さらに企業が人件費を削減する動きを強めると考えるのは、ややミスリードな議論のように思われます。


村田雅志(むらた・まさし)

●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●

労働分配率って何?

●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●

企業が生み出した付加価値のうち、
人件費が占める割合を示したもの


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03月12日更新

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村田雅志(むらた・まさし)

FXCMジャパン チーフエコノミスト 兼 営業部長
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月にGCIキャピタル・チーフエコノミスト。
09年4月より専修大学客員教授。09年6月より現職。
東京工業大学生命理工学研究科修士課程修了、Columbia University Master of International Affairs修了、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」、「一冊まるごと投資商品超入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」など

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