村田雅志のKlugView グローバル投資のポイント

いずれ解消される足元のドル高

昨日(6月5日)に発表された5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数(NFP)が、前月比34.5万人減と、市場予想(約52万人減)ほどの減少を示しませんでした。また3月、4月のNFPも、上方修正され、雇用の減少ペースも徐々に落ち着く印象を示しています。

NFPが、市場予想を上回る結果となったことから、為替市場では、ドル買いの動きが強まりました。ドル円は、雇用統計発表後、96.9円から97.5円まで一気に上昇し、その後、乱高下があったものの、98.65円で終わりました。

ドル円が99円台目前まで上昇したことで、米国景気の先行きに自信を持ち始めた方もいるかもしれません。しかし、昨日のドル高は、米国景気の改善を背景としたものではなく、米国債の利回り上昇を背景としたものと思われます。昨日の米10年物国債の利回りは、米雇用統計が発表された後、一時3.89%と、昨年11月以来の水準まで上昇しています。また、米国の量的緩和政策を背景に低下を続けてきた米2年物国債の利回り(終値)も、1.30%と前日の0.96%から一気に上昇しています。

米国債の利回り上昇は、雇用情勢の改善の兆しを背景に年内の利上げ観測が高まったため、と考える方もいらっしゃるようです。しかし、米国政府が、今年だけで2兆ドルもの国債を新規発行するなか、FRBが利上げを実施するとは思えません。仮にFRBが利上げを実施すれば、米国債の利回り上昇圧力は、さらに高まり、米国政府の資金調達を難しくします。

あまり注目されていませんが、米国の消費者信用残高が減少を続けていることも利上げを難しくします。雇用統計の後に発表された4月の消費者信用残高は、前月比157億ドル減と、市場予想(約60億ドル減)を上回る減少幅を示しました。また、3月の消費者信用残高も、166億ドル減と、速報値(111億ドル減)から下方修正され、過去最大のマイナスを記録しています。消費者信用残高が減少を続けている状況で、利上げが実施されれば、さらに信用収縮が進み、米国の個人消費が縮小するリスクが高まります。100年に1度の不況、の名の下で、過去に例を見ない対策を続けてきた米当局者が、景気下押しリスクを高めるようなことを自らするとは思えません。

ドル買いが金利上昇を背景にしている以上、今回のドル高局面は、さほど長く続かないか、仮に続いたとしても、あるところで一気に解消される動きが出るように思えます。2007年に利上げを背景に上昇を続けた英ポンドが、利上げ終了とともに下落し、その後の利下げで半値近くまで下落したのは良い例です。

世界的に金融緩和政策が取られている以上、米国の金利上昇は、米国の利上げを予知したものではなく、米国を中心としたインフレの進展を予知したものに思われます。昨日のニューヨーク原油先物市場では、指標となるWTI(7月物)が、一時、1バレル70.32ドルと、昨年11月上旬以来の高値となっています。

原則、通貨の価値は、通貨の交換対象となる財・サービスの価格で決まります。インフレ(財・サービスの価格が上昇すること)は、通貨の価値が低下することを意味します。インフレリスクが高まっている以上、足元のドル高は、矛盾した動きといえ、どこかで矛盾を解消する動き、つまりドル安の動きを、我々は目にすることになるのでしょう。


村田雅志(むらた・まさし)


●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●

米国の09年4月の消費者信用残高は、
前月(3月)からどれくらい減った?

●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●

157億ドルの減少

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村田雅志(むらた・まさし)

FXCMジャパン チーフエコノミスト 兼 営業部長
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月にGCIキャピタル・チーフエコノミスト。
09年4月より専修大学客員教授。09年6月より現職。
東京工業大学生命理工学研究科修士課程修了、Columbia University Master of International Affairs修了、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」、「一冊まるごと投資商品超入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」など

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