再び地合いを強めた金市場の行方
NY市場では、7月下旬には1,160ドルを割り込む水準まで下落していた金価格は7月28日に1,160.40ドルの終値を付けた後は上値追いに転じ、現地8月17日の終値は1,228.30ドルに達しています。
そもそも、NY市場の金価格は6月下旬には1,240ドル台で推移していましたが、7月に入ってすぐに下落に転じていました。この金市場の動きとは対照的に、NY株式市場は7月2日に9614.32ドルまで下落した後は上値追いに転じ、金価格が直近の最安値を付けた7月28日には1万497.88ドルまで回復していました。
この金市場と株式市場の動きは、欧州経済に対する危機感から安全な投資先として金市場に資金が流入していたものの、欧州経済に対する弱材料の織り込み感が強まるに伴ってリスク回帰の動きが強まったため、金市場から資金が流出し、一方の株式市場に資金が流入するという流れが背景になっていると考えられます。
ちなみに同じ期間のユーロ・ドル市場では、ユーロが1.2233ドルから1.2990ドルに上昇するなど、ギリシャ財政問題に対する懸念が深まっていた6月上旬の1.19ドル台に比べるとユーロが買い戻される動きを見せています。このことからも、欧州経済に対する警戒感の和らぎを示唆していると言えるでしょう。
このように欧州経済に対する不安感の緩和を背景にして金価格が下落傾向を強めていたにもかかわらず、8月に入ってから金価格の上昇指向が再び高まっている理由として、まず、米国、そして欧州経済に対する不安感が強まっていることが挙げられます。
特に、米国の雇用情勢が停滞していることが金市場の買い気を強める重要な要因となっています。というのも、経済回復のシナリオの一つとして考えられる内需の拡大は、雇用情勢の回復とこれを背景にした個人消費の増加、によってもたらされると考えられるからです。
なお、米国の7月の非農業雇用数は2ヶ月連続の減少となっただけでなく、前月比13万1000人減と事前予想を大幅に上回りました。また、週間失業保険新規申請件数は予想外の増加、そして7月の失業率は2ヶ月連続で昨年7月以来の低水準となる9.51%と発表されるなど、米国の雇用情勢が停滞しています。
このように、米国の経済見通しに不透明感が強まることによって、安全な資産としての金需要が強まることになり、金市場へと資金が流入する可能性が高まります。そして、この流れに拍車をかけているのが、米連邦準備理事会(以下、FRB)による量的緩和政策の継続です。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は、短期金利の指標となるフェデラルファンド(FF)金利誘導目標を引き続き年0-0.25%のレンジに据え置くと発表したことに加え、2年債と10年債を中心に国債再投資を実施することを明らかにしました。
量的緩和は金利を低く抑えることで、市場に出回る資金額の拡大と景気の拡大を図る政策ですが、これは将来的なインフレの可能性が高まることを意味します。これまでに何度か触れているように、実物が存在する金はインフレになれば将来的に価格が上昇すると考えられています。そのため、従来からインフレヘッジの一手段と考えられており、インフレ発生の可能性が高まると金市場に資金が流入する傾向があります。
さらに、このインフレ観測を強めているのが熱波による干ばつの影響でロシア、ウクライナが穀物輸出を一時的に中止したことによる穀物価格の上昇です。ロシアの干ばつが深刻化した7月下旬以降、シカゴ市場のコーン価格は7営業日で約13%の値上がりを記録し、その後も高値での推移が続いています。
このような欧米経済に対する不安感の再燃、米国での量的緩和と穀物価格の上昇による将来的なインフレに対する警戒感が、現在の金市場の心理を強めていると考えられます。なお、8月1日には1281.83トンまで落ち込んでいたNY市場の金ETF(SPDR)残高が、17日には1294.60トンまで増加していますが、これが金市場への投資意欲の強まりを端的に示していると言えるでしょう。
8月17日のNY金市場は、株式市場が堅調に推移したにもかかわらず小高い動きを見せています。また、この日の金ETF残高は前日より株式市場の強気な足取りにもかかわらず、金市場から資金が流出するどころか、7.90トンと今年6月8日以来の急増となっています。この動きは、金市場の投資需要の根強さを示唆する動きと見られます。このような根強い金への投資意欲もあって、金市場は上値を目指す足取りが続くことになりそうです。
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