史上最高値を更新した金の今後を考える
NY市場では、5月21日には1,166ドルまで下落していた金価格は、6月上旬に一時的に下落しながらも概ね上昇し続け、8日には電子取引において1254.5ドルに達しています。また、この日のロンドンの現物市場では現物価格としては史上最高値となる1251.20ドルを記録しています。
このように金価格が上昇しているのは、各報道で伝えられているように、欧州の信用不安に加え、米国でも弱気な雇用統計が発表されたため、欧米経済に対する懸念が強まり、質への回避志向が高まるなかで金に投機資金が流入したこと、が背景となっています。
そのうち5月~6月にかけて金へと投資資金の"質への回避"を促す最大の要因となった欧州経済の動向を振り返ってみましょう。
5月19日には予定されていたギリシャの国債償還が借換債の引き受け手不足で困難に陥るという事態が発生しました。また、続く5月29日には世界第二位の経常収支赤字国であり、金融危機発生後には財政状況に対する懸念が強まっていたスペイン国債の格下げがフィッチレーティング社により発表されています。このような事態が発生するなかで、ソブリンリスクに対する懸念が一段の強まりを見せているのです。
なお、総計で7,500億ユーロという巨額の資金支援策が決定されたにもかかわらず、他のPIGS諸国であるポルトガル、イタリアの財政状況が懸念される状況に変わりはありません。更には、南欧諸国の財政問題が更に拡大することがあれば、南欧諸国の債券を大量に保有するドイツ、フランスというEU経済の中心的役割を担っているこの2カ国にも被害が飛び火しかねないことも、欧州経済の懸念要因となっています。
特にこの問題は、現在のEUの経済構造そのものに起因しているため、EUの財政赤字問題が長期化するとの警戒感が強く、これが金への指向性をより強める一因と考えられます。
このような欧州の信用不安を背景にして投機資金が金市場にどれだけ活発に流入していたのでしょうか?金の投資用需要を示す指標のうちの一つである金ETF残高の5月1日~6月8日間の動向を見ると、NY市場で上場されているSPDRの金ETF残高は、5月3日時点の1,159トンから6月8日には1,298.53トンへと139.53トンと大幅に増加し、過去最大に達していることが分かります。
また、この間のNY市場における金先物(期近限月)価格は5月下旬にかけて下落しながらも5月末以降は上昇する、という動きを見せましたが、このような価格の高下にもかかわらず金ETF残高が増加の一途を辿っていること、しかも金価格が1,250ドルを突破する場面においても増加が見られていることからは、投資用としての金需要の強さを示していると考えられるのです。
なお、このような安全な投資先としての金需要は今後も根強く見られる可能性が浮上しています。というのは、前述のように欧州経済の構造自体に対する懸念や欧州問題の長期化見通しに加え、米国経済の見通しに対する不透明感が強まっていると見られるからです。
その米国の経済見通し不透明感を強める一因となっているのが、メキシコ湾の原油流出事故です。今回発生したメキシコ湾での原油流出事故は、米国で過去最悪の事態となっていますが、ブルームバーグが伝えたところによると、この事故を受けて米国政府はメキシコ湾岸地域の産油量が6.1%減少する、との見方を示しています。
メキシコ湾岸地域は米国の主要な産油地帯であるため、同地域での減産は米国の原油輸入量の増加とこれに伴う原油国際価格の上昇といった事態をもたらしかねません。
さらに、懸念されるのがこの事故の発生による雇用者の減少です。というのは、今回の原油流出事故を受け、フロリダ州の観光業が甚大な被害を受ける可能性があるからです。CNNが伝えたところによれば、原油流出事故が夏のレジャー産業に与える影響により、19万5,000人規模の雇用縮小が見込まれる、との試算をフロリダ中央大学が発表しています。
これは供給減少を受けて原油価格が上昇すると同時に、雇用が減少する可能性があることを意味します。そうなれば米国経済の弱体化に対する懸念が強まるのは必至で、ドル離れの動きが加速化するリスクが高まり、結果として金への投資熱が更に高まる可能性があるのです。
現在NY市場では大口投機家の金買い越し数が22万枚を超える状態が続くなど、買われ過ぎとも言える状況となっています。そのため、買われ過ぎが警戒されて投機資金が流出するリスクが高まっていますが、欧州、米国の経済状況に好転の兆しが見えない限り、中期的に弱気なスタンスを採るのは困難なように思われます。
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