コモディティレポート RSS

危うさを孕む米国エネルギー市場

 7月下旬にかけて、NY原油先物市場の通常取引では中心限月が一時的に62.70ドルまで下落しましたが、その後は一転して上昇場面を演じ、8月3日には7月1日以来となる70ドル台に到達しています。また、この原油価格の上昇に連動してガソリン先物価格も上値追い場面を演じ、現地3日の通常取引では昨年10月15日以来の高値となる2.0855ドルに達しました。

 今回の価格急騰の直前である7月28日時点に、大口投機家はどのようなポジションを取っていたのでしょうか。CFTC報告によると、7月21日には2,218枚まで減少していたNY原油市場における大口投機家の買い越し数は、7月28日時点では4,576枚に増加していたこと、そしてそれと同時に、市場の人気のバロメーターとされる取組高が増加していました。つまり、価格が下落した局面では大口投機家を中心による買い拾う動きが広まり、これが価格をサポートしていたことが分かります。

 このようにエネルギー市場では大口投機家が安値で買い拾う姿勢を見せるなか、米国株式市場は昨年11月初旬以来となる9,200ドル台を示現するなど、好調な動きを見せています。これに続き中国のPMI改善やアジア株式市場が堅調に推移したことが、米国、そしてアジア市場の景気回復期待と需要増加観測が強めたことに加え、ガソリンの需要が最も膨らむ盛夏を迎えたことが、エネルギー価格の上昇を促したと考えられます。

 しかしながら、発表される米国経済に関する指標は依然として強弱が混在しており、米国経済が完全に底を打って回復に向かっている、とは言えないのが実情であることに変わりはありません。そのため、せっかく米国経済に対する回復期待が強まったとしても、今後発表される経済指標次第では需要回復期待が空振りに終わる可能性を含んでいる、つまり、経済指標の内容によって原油価格が高下するリスクが高いのが現状と言えるでしょう。

 特に、原油、ガソリン共に需要の増加、というファンダメンタルズを伴わずに上昇場面を演じていることが警戒されるところです。例えば原油の場合、EIA(米国エネルギー省情報局)の発表によれば、最も需要が膨らむ時期であるにもかかわらず、7月24日時点の原油在庫は前週に比べて増加に転じただけでなく、1993年以来、最も多い水準となる3億4,780万バレルに達しています。

 一方のガソリン在庫に関しては、前週に比べると約230万バレル減少しているとはいえ、この時期のガソリン在庫量としては1998年以来、最大の水準に達しています。なかでも注意したいのが、ガソリン在庫の減少は需要の増加によってもたらされたものではない、という点です。このことは、これまでに何度か取り上げたように、製油所稼働率が低迷していること、つまり米国内のガソリン生産量が引き下げられていることから分かります。

 この数年、米国では製油所の老朽化、ハリケーン襲来による損壊、などが背景となって製油能力が不足し、夏場の需要期には製油率が95%を超える水準に達しても、根本的な製油能力不足を原因としたガソリンの供給不足が懸念される傾向がありました。特に、夏場の需要期を迎えるこの時期には、ほとんどフルで稼動しても供給が需要に追いつかない、として製油所の稼働率の高さが危惧されていたのです。

 しかしながら、今年に関しては、米国でもっともガソリン需要が膨らむ時期を迎えているにもかかわらず、製油所稼働率は84.6%という低い水準にとどまっています。このように95%以上の稼動率が懸念されていたこの数年の傾向とはうって変わって、85%を切る稼働率であっても需要に対応できるという現在の状況は、米国内におけるガソリン需要の不振を表している端的な例、と言えるでしょう。

 このようにファンダメンタルズが弱い状況にあるにもかかわらず、原油・ガソリンの価格が上昇している現在の状況は投機的な色彩が強いと考えられます。さらに、投機的側面から見ても、米国のエネルギー市場が強い足取りを維持するとは言い難い状況にあります。なぜなら、前述のように、米国経済が完全に回復基調に乗ったわけではなく、これから発表される経済指標次第では失望感が再び強まる可能性があることに加え、原油市場を対象にした規制強化の動きが見られているからです。

 原油市場における取引の規制強化に関しては、オバマ政権が強気な姿勢を見せる一方、CFTC(米国先物取引委員会)は消極的と言われるなど、米国内においても意見が分かれているようです。もし、規制が強化されるようになれば投機資金が流出し、これに伴って市場規模が縮小、そして流動性の低下が促され、かえって価格がより激しく高下するリスクも高まります。とはいえ、米国経済の回復見通しが立たないなかで原油価格が70ドルに達成したことにより、原油市場への投機資金流入に対する警戒感はよりいっそう強まることになるでしょう。

 なお、実際の取引規制強化策については不透明感が強いのが実情ですが、それがかえって様々な憶測を生み、その結果として神経質な取引が展開される可能性もあります。ファンダメンタル的にも投機という側面から見ても、危うさを孕んでいるのが今の原油市場と言えるでしょう。

平山順(ひらやま・じゅん)氏

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

株式会社日本先物情報ネットワーク

PR / Ad Space

PR / Ad Space

クルクるアンケート

02月04日更新

自動売買って興味あります?






みんなの回答を見る

ページトップへ戻る