不透明感強まるインドの金需要
8月以降に本格的なフェスティバルシーズンを迎えるインドでは、9月~11月に金の需要が増加する傾向があります。このフェスティバルシーズン入りを前にするこの時期に、市場でインドの金需要盛り上がりに対する期待が高まる声も時々聞かれることがあります。というのは、インドは2008年までは世界最大の金需要国で、GFMSの発表によれば2008年度の年間需要は637トンで、全世界の需要の約22%を占めるほどの消費国となっているからです。
一方、現在のNY市場の金価格というと、6月3日の通常取引で992.10ドルを付けた以降は下落に転じ、6月15日以降は920~940ドルのレンジ内で推移する頭重い展開が続いています。現在、インドを始めとする新興国は価格が下落したところで金を購入するに留まっており、その動きは金価格をサポートこそすれ、価格の上昇に至るほどの旺盛な需要は見られていません。
それだけにNY金市場にとって今後、金価格が上昇するかどうかは、世界最大の金消費国であるインドで最も需要が増加する結婚シーズンを11月に迎えることもあり、インドの金需要動向が2009年下半期にどの程度増加するか、という点が大きな鍵を握っていると言えるでしょう。
しかしながら、インドの今年下半期における金需要がこれまでに見られたような強い伸びを見せるかどうか、は不透明感が強いのが現状となっています。その一つの要因として挙げられるのが、何よりもまず米国の経済動向でしょう。
インドはBRICs諸国の一国として経済成長を示現し、05年~08年まで9%台という高い経済成長率を見せていますが、その主な輸出相手先国は米国となっています。インドDGCI&S(商工省・通商情報統計局)によると、2007年時点の総輸出額に占める米国の割合は13%、金額にして207億1,100万ドルに達しています。ところが、2008年度の経済成長に関してインド政府の中央統計機構は、5月29日に世界経済悪化の影響を受けてIT産業などの輸出が伸び悩んだ結果、として前年度の9.0%を大きく下回る6.7%に留まった、と発表しています。
なお、インド財務省経済局のヴィルマーニ首席経済顧問は、今年度のインド経済の見通しに関し、3月半ばに「財政および金融政策の後押しがあれば、9月以降には経済は持ち直すのではないか」、とコメントしています。しかしながら、同氏の発言は、アメリカ経済が2009年9月頃に回復するという当時の予測を背景に行われたと見られるため、米国経済の低迷観測が強まった現時点で見る限り、インドの経済が9月には回復に向かう、という同経済顧問の予測の実現は困難になったように思われます。
この輸出不振に伴う経済成長の鈍化に加え、インド国内の財政悪化も気になるところです。6日にブルームバーグ社が伝えたところによると、今年度の政府借入額は過去最大の約8兆8,000億円に達しているほか、財政赤字は対国内総生産(GDP)比で16 年ぶりの高水準となる6.8%に拡大する見通しとなっています。財政赤字の拡大は、インド政府が経済危機の影響を脱するための財政刺激策として投入した資金が膨らんでいることを意味している、という点から見ても、同国経済の早期回復については楽観的な見方が難しいと考えられるのです。
また、金市場にとってこのようなインド国内経済の落ち込みと同様に懸念されるのは、干ばつに見舞われている影響で、インドの農産物生産量が減少する可能性が高まっている点です。というのは、他のBRICs諸国、先進国に比べてインドではGDPにおける農業の割合が18%前後と高いため、その年度の農産物の生産状況が農村における金の需要動向に大きな影響を与える、というインド独自の特徴があるからです。
さらに、インド政府が予算案において金の輸入関税を従来の10グラム100ルピーから10グラム200ルピー(約4.12ドル)への引き上げを発表していることも注目されます。輸入関税率自体は、金価格に対し約4.4%とそれほど高いものではありませんが、経済成長著しい時期とは異なり、国内の財政悪化、そして農産物の減産によるダメージが見込まれる、という状況下では、わずかとはいえ金価格の上昇を促すことになる措置は、需要の伸び悩みを招く可能性があることに留意すべきでしょう。
なお、インドの今年第1~3四半期の金需要は前年度に比べて87%と大きく減少した17.7トンに落ち込む一方、中国の需要が2%増加した105.2トンに達した結果、世界最大の金消費国という地位を失っています。今後の世界、特に米国の経済動向次第、という側面が強いとはいえ、金価格が上昇するためには無くてはならないインドの金需要は、今年に関しては不透明感が強い、というのが現状と言えるでしょう。
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