粗糖価格、3年ぶりの高値のわけ
一時は66ドル台前半まで売り込まれたNY原油価格は、その後、次第に地合いを強め、30日現在の終値(通常取引)は、69.89ドルと、引き続き70ドル前後で高下するなど、底意の強さを見せています。原油市場は、商品市場最大を誇る取組高や、商品インデックスを組成する場合の比率の高さなど、取組の規模の大きさ、そして全ての商品の生産には原油が原料として利用されている、という現状から商品市場全体の方向性に大きな影響力を持っていることは周知の通りです。
特に農産物市場においても、バイオエタノールが注目を浴びて以来、原油価格にともなってガソリンが上昇し、その結果、バイオエタノールが廉価になればエタノール生産用としての農産物需要が増加する、という一連の流れが確立されているため、70ドル前後、という原油価格水準でもバイオエタノール生産を行う利点のある農産物、つまり砂糖に関しては、原油価格上昇の影響を受けやすい状況にあります。
とはいえ、天候により生産量が影響を受けやすいがために、農産物は独自の需給要因が変化しやすく、時おり、原油市場の動向とは異なる動きを見ることができます。現在の粗糖市場は、前述の原油高の影響に加え、独自の需給要因で原油市場とは異なる動きが見られている典型的な例、として挙げられます。
NY粗糖市場では、4月上旬から5月上旬にかけて価格が上昇し、13セント台から16セント台へと達しました。その後、5月上旬から6月19日までは15セント~16セントのレンジ内で推移する、こう着状態が続きました。
しかしながら、6月22日の取引で突如、地合いを強めた後は急伸場面が続き、現地29日の通常取引において、NY粗糖価格は終値としては2006年5月上旬以来の高値となる17.90セントで引けています。さらに、続く30日の取引では、同じく約3年1ヶ月ぶりの高水準となる18セント台を付けています。
5月上旬から6月にかけて価格が上昇し、6月11日以降は70ドル前後でもちあっている原油価格とは、異なる動きを呈しているのです。この砂糖価格の急伸の背景となっているのが、ブラジルと並ぶ世界最大級の生産国、それと同時に世界最大の消費国であるインドでの干ばつとこれに伴う砂糖減産の可能性です。
米国農務省が5月に発表した予測によれば、2008~09年度の世界の砂糖生産量は、約1億5,752万トンの需要見通しを下回る1億4,873万トンに留まる、つまり世界的な需給不足が指摘されていました。なお、そのうち、ブラジルの生産量は3,235万トンとされる一方、インドの生産量は1,678万トンに留まる、と見られています。また、08~09年度のインドの砂糖輸出量は前年度の約583万トンから14万トンへと急激に減少する、という予測も、強気な需給見通しを後押しする要因となっています。
しかしながら、この発表後にインドでは干ばつに見舞われているため、6月下旬時点ではこの年度のインドの砂糖生産量は1,500万トンにも達しない可能性を指摘する声が広がっています。その結果、2,300万トン前後と見られる需要を手当てするために、これまでの予測180万トンを上回る量の輸入が必要になる、との見方が強まっています。
さらに、09~10年度に関しても、米国農務省は、"インドの砂糖生産量は前年度から回復して2,080万トンに増加する"と予測しているとはいえ、年間需要の2300万トン前後に2年連続して達することはなく、その結果として09~10年度の砂糖輸入量は前年度を上回る250万トン、と予測しているのです。
この米国農務省の予測は、インド、そして世界の砂糖需給が2年連続して引き締まることを示唆しているわけですが、何よりも最も大きな心理的影響を及ぼしているのが、従来は砂糖の純輸出国で、世界第2位、第3位の輸出量を誇るインドが08~09年度には3年ぶりに純輸入国に転じるうえ、国内の砂糖価格高騰に対応するためにインド政府が無関税輸入を認可した結果、翌年度にはさらにその傾向が助長される、という点でしょう。
中国と同様に新興国の1カ国として今後の経済成長が期待されている同国の砂糖需要は、中長期的に見ると経済成長に伴って今後も増加すると予想されますが、中国に次ぐ世界第2位の人口を誇るため、一人当たりの需要がわずかに伸びただけでも全体的には大きな影響をもたらすことが見込まれます。
さらに、サトウキビと糖蜜の供給不足が影響して現在は中断されているとはいえ、インドでも2003年に燃料油へのエタノール混合プログラムが導入されています。インドのエタノール生産は糖蜜を原料にしているためエタノール生産用としてのサトウキビ消費は今のところ限定されていますが、昨年10月にはエタノール混合率が引き上げられたことにより、エタノール混合プログラムが再開後にはより多くのエタノールが必要とされるため、流動的とはいえ、インドの根本的なサトウキビ消費量が更に拡大する可能性があることにも注意が必要でしょう。
同国の2年連続しての砂糖純輸入国への転換は、世界の砂糖需給は供給過多、という長期に渡り砂糖価格を抑制していた見方が変化する可能性を秘めているかもしれません。
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