金市場の今後を考える
6月3日のNYの金先物市場では中心限月の8月限が992.10ドルと、今年2月24日以来の高値に達しました。その後は価格が下落していますが、それでも現地9日の終値は954.7ドルと、金融危機前に金価格が高騰していた水準を維持しています。
一方の国内でも、海外の堅調な動きを受けて、一時は2,760円台まで落ち込んでいた金価格は5月末以降、今年3月2日以来となる3,000円台での推移を続けるなど、強い足取りを維持しています。
このような金価格上昇の一因として先ず挙げられるのは、ドルに対する不信感の強さでしょう。米国では新規失業者数がこれまでに比べて改善したと見られながらも、失業率は9.4%に達しているうえ、GM社の破綻により今後も失業率が高止まりするとの見方が広まっています。
また、2008年末には、その前年度の9,200億ドル程度の2.5倍となる2.3兆ドル規模まで膨らんだ後は、2兆ドルを下回る水準まで縮小していたFRB のバランスシートが、再び拡大し、6月4日時点では2.12兆ドル余に達するなど、財務状況が良いとはいえない状況が続いていることも一因と思われます。
特に、今年1月15日付けの発表で初めて追加され、その当時は15億4,200万ドル規模となっていたMortgage-backed securities(不動産担保証券)の保有量が6月4日時点では4,276億1,200万ドル規模へと大きく膨らむなど、リスクを孕んだ資産の保有量が大幅に増加しています。
通貨の価値はその発行主・国の信用をもとにして成り立っている、ということを考えると、FRBのバランスシートの急激な増加、そしてリスク資産の保有量の拡大は、米国の抱える財政赤字と並ぶ、ドルの価値に対する不信感を根強く支える一因となっていると言えるでしょう。
一方、GM社が破綻に到ったことで弱材料織り込み感が強まると同時に、米国経済の底打ち感も強まっています。このような楽観的な見方が市場のムードを強めているため、米国株式市場では堅調な動きが続いていますが、この株式市場と金市場の動きにも新たな変化が見られています。
これまでは金と株式市場の動きは非相関の関係にあるとの見方が一般的でした。というのも、何らかの危機が発生した場合には株式市場から投資資金が流出し、その資金が金市場に流入する反面、経済の成長が見込める場合には、より高い価格上昇率を見込んで投資資金が株式市場に集中するという動きを見せる傾向があったためです。
しかしながら、リーマンショック直後の08年9月中旬から現在までの動きを見ると、高まる金融危機に対する警戒感から株式市場と金市場が急落した時期(08年9月中旬~08年11月初旬)、ペーパーアセットに対する不信感から実物である金に資金が集中したため株式市場の低迷にもかかわらず金価格が上昇した時期(08年11月初旬~09年2月下旬)、そして株式市場と金市場が連動して上昇している時期(09年2月下旬~6月上旬)の3つに分類することが出来ます。
なかでも注目したいのは、株式市場と金市場が連動して上昇している現在の動きです。というのは、金価格が上昇する一方で株式市場が低迷した08年11月初旬~09年2月下旬の時期には-0.68と負の相関関係(反比例の関係に近い)を強めていたにもかかわらず、その直後の3ヶ月間で、相関係数は0.79(正比例の関係に近い)に転じるなど、急激な変化を見せているからです。
この動きの背景として、景気回復に伴い将来的にインフレが発生する可能性が高いという見方、そして、高リスク証券化商品への投資を原因とした金融危機を経験したことで投資家がリスクを予めヘッジしておく必要性を痛感した結果、安全な資産である金に対する需要が膨らんでいること、が考えられます。
とはいえ、さすがに金価格が1,000ドル台という史上最高値の水準に近づくことは、前年度に経験したコモディティ・バブルを思い起こさせること、そして、景気回復が確実となっていない段階でのこの価格水準では宝飾用需要を後退させる一方で、リサイクルとしての金供給量の増加が見込まれる、という弱気な要因が台頭する可能性が高いことから、これ以上の金価格の上昇に対しては、圧力がかかってくることが予想されます。
しかしながら、決算発表を控える欧州系銀行が依然として高リスクの証券化商品を大量に抱えている、という現状、また将来的なマネタリーインフレの発生を睨んでいると見られる年金基金等による金ETFの買い付けが着々と進行し、金ETF残高が1317.38トンの規模に膨らんでいる状況、FRBや米国の財政状況に対する懸念、そしてペーパー資産で資金を運用する投資家にとってリスク回避のための安全な資産、という新たな役割が加わった金市場にとって、必要以上の悲観的な見方は不要なように思われます。
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